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ライター&ディレクターでもすぐできる! WEBコンテンツの校正・校閲の基本とコツ2/2回
こんにちは。編集者の島田です。
WEBコンテンツのクオリティアップのために、編集者はもちろんのこと、ライター、ディレクター、デザイナーが押さえておくべき校正・校閲の基本を、紙媒体出身の編集者の視点から2回に渡ってお伝えしています。前回は、WEBコンテンツにとって校正・校閲を行う価値と校正・校閲の違い、実際の作業について解説しました。
【参照】WEBコンテンツのクオリティを上げる校正・校閲の基本とコツ1/2回
2回目となる今回はプロでない人が実際に校正・校閲を行う際のポイントについてお話しします。
人間の脳は間違えを勝手に修正しながら文章を読む
編集や執筆に携わる方なら、『日本ハグ協会』のマザーさと子さんのブログに書かれていたこの文章を読んだことがあるかもしれません。
【参照】ちょっと読んでみてください
まずは、以下のひらがなの文章を読んでみてください。
「こんちには みさなん おんげき ですか? わしたは げんき です。この ぶんょしう は いりぎす のケブンッリジ だがいく の けゅきんう の けっか にんんげは もじ を にしんき する とき その さしいょ と さいご の もさじえ あいてっれば じばんゅん は めくちちゃゃ でも ちんゃと よめる という けゅきんう に もづいとて わざと もじの じんばゅん を いかれえて あまりす」
読めましたね?
じつはこの文章はほとんどの単語内の文字の順序が入れ替わっているのですが、ほとんどの大人はちゃんと意味を捉えながら読めてしまうんです。
つまりここに書かれているとおり、人間は文字を認識するときに最初と最後の文字さえあっていれば間の文字の順番が入れ替わっていようが無意識の内にちゃんと意味を補正しながら読んでしまうものだということがわかります。
人間の脳というのはなんと精妙で都合のよいつくりをしているんでしょうか。感動してしまいますね。逆に言うと、この柔軟性の高い脳のおかげで、人間は間違った文章を見つけ出しにくいのだと言えます。
特に自分が書いた文章は記憶が文章のつづりのミスを修正しながら読ませるので、何度読み返してもミスに気付かないということがよくあります。
校正・校閲をするうえでは、こうした人間の脳の特性も踏まえて「人間が書いたものは間違えがあるものだ」という前提に立ってください。その危機感が校正・校閲の精度を高めてくれます。
校正・校閲の際にはこれだけは必須!
ではここからは、プロでない人が実際に校正・校閲を行う際に「これだけは押さえておくべきポイント」をお伝えします。校正・校閲のやり方は業界ごと、会社ごと、個人ごとにもそれぞれ少しずつ違うところがありますので、私の知る範疇として書かせていただきます。
また、校正と校閲は領域の違う作業ですが、校閲となると、あまりにも専門性が高すぎてノンプロができる範囲はわずかなことから、今回は校閲でできそうなことを校正のポイントと一緒にお伝えします。
いずれにせよ、大切なのは「読み手にとって快適になる指摘」「誰が見ても、どこをどう修正すればよいかわかる朱書き」という着地点です。これさえ守れれば、細かい方法論にこだわる必要はないと思います。
校正・校閲の心がまえと最初にすること
校正・校閲ではいきなり本文を読み出してはいけません。その前にすべきことをまとめてみました。面倒くさいように見えますが、この段階をしっかり踏んでおくことで「木を見て森を見ず」という状態に陥らずに校正・校閲をすることができます。
「本当に間違いが許されない原稿」はプリントアウトして校正する
「PC画面上で読むよりもプリントアウトして読んだほうが文章が頭に入ってくる、校正・校閲がしやすい」ことは、皆さんすでに経験則的には知っていることと思います。しかしこれは「気のもの」でもなんでもなく、人間の脳の構造上の問題であることが近年になって証明されています。反射光で読む紙媒体と、透過光で読むディスプレイでは文字を認識する際の脳の反応が違い、紙媒体の方が情報を理解させるのに優れているそうです。
【参照】「紙媒体の方がディスプレーより理解できる」
スピード重視のWEBコンテンツのすべてをいちいちプリントアウトはできませんが、「これだけは間違えられない」という原稿はぜひ、紙に印刷して校正・校閲してください。
紙での校正・校閲には赤ペン・青ペン・鉛筆・蛍光マーカーを用意する
どうでもいいように思うかもしれませんが、紙の上に校正・校閲を書き込む際はこの鉄則を守ってください。校正・校閲で入れる朱書き(しゅがき)は、誰が見ても同じように理解できるというのが前提です。
- 修正する文字は赤字で書く(朱書き)
必ず赤字で書きます。文字は大抵黒なので、同じ黒だと紛れてしまいます。 - 修正の仕方を補助する指示は青字または鉛筆(黒字でも可)
逆に、補足的な言葉は黒字で書きます。補足で書いた説明書きまで修正文字と勘違いされないためです。 - 修正すべきか確認が必要な箇所は鉛筆
確証がない場合は鉛筆で書きます。不要なところは後で消しゴムで消せるように。 - 前回の修正が直っているかをチェックするときはマーカーで消しこみする
修正が直っているかを確認したら、マーカーで赤字をチェックします。赤字に影響を及ぼさずに、チェックが漏れてないかを確認するためです。マーカーの替わりに色鉛筆を使っても構いません。
紙でない場合は、上記の原則を前提に、校正側とそれを受け取り修正する側とが共通で認識できる書き方を決めて校正・校閲を行ってください。
調べまくる
校正の基本は「間違っていないかを疑う」ことであり、校閲の基本は「事実かどうかを確認」することです。そのためには、1に調べる、2に調べる、3・4も調べ、5にも調べる。とにかく調べまくるというのが基本です。いまはネットでなんでも調べられるようになったので大変便利です。「調べる」というクセをつけるのが校正・校閲のクオリティをあげる一番の近道かもしれません。
ノンフィクション作家の石井光太さんが自分の作品の校閲をした新潮社の校閲のレベルの高さをツイートした話はいろんなところでとり上げられていたので、見たことがある人も多いかもしれません。これぞ、プロの意識ですね。
石井光太さんツイッターより
新潮社の校閲は、あいかわらず凄い。
— 石井光太 (@kotaism) May 4, 2013
小説の描写でただ「まぶしいほどの月光」と書いただけで、校正の際に「OK 現実の2012、6/9も満月と下弦の間」とメモがくる。
このプロ意識! だからここと仕事をしたいと思うんだよなー。 pic.twitter.com/cUOrMi4K5B
まず読み手目線で全体を眺めながら読む
発信される情報には原則受け取り手=読み手がいます。校正・校閲は常にこの“読み手”に対して正解であるかを判断することが使命であって、決して客観的な正誤を問うものではありません。
たとえば、読み手が小学生低学年であれば、「漢字にはよみがなを打つか、難しい漢字は使わない」ことを前提に校正します。しかしこれが普通の大人が読む場合、また専門家だけが集まる学会で読む場合には、それぞれが理解しやすい正解があります。
つまり、校正・校閲をするときは「誰に対してどんなシチュエーションで何を伝えるのか」という文章のコンセプトを理解したうえで行うことが必要なのです。
「読み手目線で読む」とは設定された読み手の立場と気分で読むことです。最初から間違いを見つけだそうと、原稿の一字一句に没入して正誤を判断しながら読むのではなく、読み手はこの原稿から「どんな情報をどんな風に取り出すのか」を想像して全体を眺めます。読み手目線で読むとたとえば以下のようなことに気付くチャンスができます。
- 商品の購買を勧めるDMなのに連絡先がない
いくら素晴らしいおすすめ文句でも、ユーザーは商品を購入することができません。
まさかDMなのに電話番号が抜けてるとかないでしょうと思うかもしれませんが、そういったまさかが起こるのが人間の仕事なんですね。 - ITリテラシーの低い高齢者向けの文章のはずなのに、カタカナIT用語が頻出し、難しい
文章がどうこういう以前に、読み手は理解しづらくイライラさせられるものには嫌悪感を示しますので、途中で読むのを止めてしまうでしょう。
こういう感覚は文字だけ追う校正をしていると見つけ出せないものですね。
「読み手目線で読む」のは案外難しいものです。専門家でなければわからない世界もありますし、小学生だった頃の感覚を必ずしも覚えているわけでもありません。それを前提にできる限り想像をしながら校正・校閲を行います。聞き慣れない言葉が出てきたら、それが読み手にとっては「常識であるかどうか」をチェックします。わからなければ「この造語は読者において常識か?」と鉛筆書きし、判断を執筆者や編集者に委ねます。
編集者やディレクターにとっては、第一稿目を初めて読む瞬間が「読み手目線で読む」チャンスです。何回も読んでいくうちに客観的な視点が失われ、なかなか大枠からの気付きは得難くなるからです。
原稿があれば突き合わせて確認する
初校(1回目の校正)で修正した後、2校目の確認をする際は、初校の原稿と突き合わせて確認をします。これを「突き合わせ校正」と呼びます。
突き合わせ校正では文章は読まず、修正箇所が正しく反映されているか(修正されるべき箇所が修正され、指示のない箇所が変更されていないか)にのみ特化して機械的に確認します。その際には先ほども書いたように、朱書きが反映されているかを蛍光ペンでチェックしながら確認します。
また、特に数字の羅列が頻出する原稿は、何度も読んでいると数字の並びを脳が覚えて、適当な補完をする可能性があるので次のような工夫をします。
- 数字や英文字の羅列はお尻から突合せをする
○×銀行 普通 5789362 → 2639857/普通/○×銀行
abc12345@aaa.com → moc.aaa@54321cba - 英数字の羅列やデータ箇所の修正が多い場合は2人で「読み合わせ」をする
表内の数字が1個ずつずれていた場合など、一人で確認するにはうんざりしすぎる場合は、誰か相棒を確保して音読で確認をします。
一方が朱書きを読み上げ、もう一人は聞きながら原稿と同じかを確認します。
「表右端から順に、1234、5678、9123、4567、8910…」といった具合です。
校正・校閲の本番のコツ
さて、いよいよ校正・校閲のメインに入ります。間違いを探しながら、事実かどうかを調べながら原稿を読んでいきます。その際のポイントを挙げればきりがなくなってしまいますが、初心者でも比較的取り入れやすいものをピックアップしておきます。
少し慣れてきたなという人はぜひ実践してみてください。中身を覚えなくても、「間違いの穴はこんなところに空いている」ということを知っているだけでも校正・校閲のレベルは上がりますよ。
誤字脱字
校正の基本はこれですね。文字が間違ってないか(誤字)、文字が脱落していないか(脱字)を見ます。
用語のゆれ
原稿の中で使われている用語が「不統一であること」を「用語がゆれている」と表現します。
「お客様」「お客さま」
「Webサイト」「WEBサイト」「ウェブサイト」
といった例です。
用語の統一は紙媒体であれば必ずよりどころとする用語集が決まっており、原則はそれに従って統一します。もちろん例外もあって、著名人の寄稿や何か特別な意図をもった文章内では独自のルールが適用されます。そういった場合はその文章内でのゆれを校正します。
ちなみに私が使っているのは『記者ハンドブック 第12版 新聞用字用語集』です。
WEB媒体では用語集を使っているところはそれほど多くはないかもしれませんが、決めておいたほうが書き手もチェックする側も何かと便利でしょう。
ただしWEBコンテンツの場合は原稿のトーンがかなりくだけたものまで許容されていますので、特別な統一ルールがない場合は、同じ原稿内で統一されていることを原則にするといいと思います。
また、こうした用語の統一や誤字脱字については、ワードの校正機能や専用のアプリなど、ピックアップしてくれるツールもありますのでぜひ活用してみてください。
【参照】プロのWEBライターも使っているブログを書くときの便利ツール、厳選2+2
漢字の誤変換
近頃はスマホで記事の更新をすることも珍しくないため、笑いのネタになるほど奇天烈な誤変換もあるので注意です。
間違いやすい漢字
誤変換と違って、案外見つけにくいのが執筆者自身やチェッカーが勘違いしている漢字の使い方です。これは正しい使い方を覚えるしかありません。
個人のサイトですが、間違いやすい漢字が一覧になっているので便利です。原稿チェックに多く係わる人は一度ご覧になってはいかがでしょうか。案外「勘違いしてたー!」という漢字もありそうですよ。
【参照】間違えやすい漢字
間違いやすい日本語
漢字と同じく、意外と多い勘違い。私自身も昔「おもたせ」の意味を「手土産」だと思い込んでいて大恥をかいたことがあります(汗)。そんなことを思い出して改めて「おもたせ」の意味を調べてみると…。
お‐もたせ【御持たせ】
《「御持たせ物」の略》来客を敬って、持ってきた土産物をいう語。多く、その客へのもてなしにその品をすすめるときに使う。「―で失礼ですが」
[補説]近ごろでは、客が持ってきた土産物を受けた側からいうのではなく、「このお菓子がお持たせに最適です」のように、客が持って行く手土産の意で使うことが増えている。
【参照】コトバンク
なんと、間違いだったはずの意味がどうも市民権を得始めているようです。言葉は生き物ですね。
こちらも漢字と同じサイトによくまとまっていますので参照ください。
【参照】間違えやすい日本語
理解できるか
主語と述語がつながっていないなどの文法的な誤りのほか、読者にとって理解できる文章や説明になっているかを確認します。その際は冒頭で説明した「読み手が誰なのか」「どんなシチュエーションで読むものなのか」を考慮したうえで「理解できる/できない」を判断します。
固有名詞は正しいか
原稿の中で最も間違えてはいけないものの一つが固有名詞です。人名、地名、商品名などの固有名詞は必ず確認を取ります。
数字は正しいか
数量、容量、金額、年月日時、電話番号や番地やロット番号などなど…。固有名詞同様に必ず確認してください。
これも実話ですが、あるブランド化粧品会社の女性誌のタイアップ広告ページでのこと。高級美容液の容量が100mlのところ、1桁多く1000mlになったまま印刷されてしまったんです。当時300万円ぐらいだった広告費がどれほど値引きされたかまでは聞いてませんが…。
それは事実か
根拠なく断言されている事柄は「それは事実か?」という視点で裏を取るようにします。ネットで検索すると思いますが、できる限り出典の情報にあたり、必ず2つ以上のソースで同じことを言っているかを確認します。ネットで調べた情報も人が書いたものですので、間違っているかもしれないというスタンスで扱ってください。
句読点の統一&頻出
見出しに句読点をつけるか。発言のカッコ後の句読点は中に入れるか「~~。」/出すか「~~」。見出しは意外とゆれやすいので、しっかりチェックしましょう。
また、読点「、」がやたらに多くて読みにくくなっていないか(またはその逆)もチェックします。
リンク先の確認
さすがにこれは皆さんされていると思いますが、WEBの場合はどちらかというと文字面というよりは、リンク先が正しいかの確認のほうが大切かもしれません。
おわりに
いかがでしたでしょうか。ポイントが多すぎましたか?
最初に言ったように、大切なのは「読み手にとって快適になる指摘」「誰が見ても、どこをどう修正すればよいかわかる朱書き」という着地点です。
たとえば、校正のルールとして「御身体御自愛下さい」が正しかったとしても、「漢字が続き、読みづらいので『お身体ご自愛ください』とするか?」と書けるかどうか。
読み手を思い、読み手と向き合えばこそ、校正・校閲のクオリティはあがっていくのだと思います。