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チェックバックの視点

はじめに

株式会社エムハンドの岩松です。アートディレクターとして、弊社の全案件TOPデザインの品質チェック(チェックバック)をおこなっています。品質チェックというと、たいそう偉そうに聞こえますが..。実態はデザイナーさんと一緒に、デザインの「なぜ」という理論の追求をしている..すなわち、考えるデザインを実践しております。「なぜ」は「関係性」の疑問視であり、根本的な問題に遡っていけることを意味します。与えられた条件の中で、やろうとしている手段を最適化する思考と発想を広げ、別の「手段」が出てくるサポートをしている..といったところです。

今回は「チェックバックの視点」と題して、弊社が大切にしている視点をご紹介させていただきます。

01.デザインを取り巻く環境

現在ほど「デザイナー」を名乗りやすい時代もありません。独創的なスタイルを編み出しても、数日後にはウェブ上で再現ノウハウが公開され、瞬く間に世界中に共有されることで、個性とされていたスタイルは平準化され、共有知として消費されています。それにより、スタイル要素を選んでいくだけで、なんとなく今っぽいデザインを生成できるという現実と環境があります。自分で新しいスタイルを発見する必要はなく、場面場面に応じてスタイルを選び、アレンジできる技術こそが大事..それこそがデザインだっと考える人が増えるのも理解できます。それによって、思想より技術の優先順位が高くなっていることを読み取ることができます。しかしながら「共有知」でデザインをするということは、自分自身を代替え可能な存在にしてしまう行為であるという側面が現実化していることも事実です..。

問題意識を共有して依頼者と一緒にその解決を目指すため、信頼の目安となるのが説得力。それは単なる理由を説明することではなくて、目指すべき場所を明確にしてくれる、前提づくりのための思想を感じられることです。その説得力こそが「今」デザイナーに求められていることかもしれません。

02.チェックバックの本質

僕が大切にしている言葉に「与贈循環」という言葉があります。よく言われる「贈与」とは自分の名を残し、見返りを求めるもの。対して「与贈」とは、自分の名を残さないで与えるばかりのことを言うそうです。人間は自分以外の人のために何かをすることこそが本質であり、その与えがまた新たな与えを生み、やがてそれは自らのところに戻ってくるという思想です。これと同様、借りがあると思うと返したくなるもので、「返報性」(人は自分が得たものと同じものを与え、与えたのと同じものを得るべきだという考え)は、人間心理に強い影響を及ぼしています。これは世界のあらゆる文化に深く根付いている規範でもあります。

ただ..デザインをビジネスにする以上、成果が求めれます。品質を下げないこと、お客様に喜んでいただくことはあたりまえの条件として、仕事を通して成長してもらう機会につなげる場の設計が「確認する側」に求められています。成長には痛みと辛さが伴います。ただ、人は傷つきながら目覚めていくものです..。認識を合わせるためのコミュニケーションも、役目を果たしたら消費されて消えていくものですが、プラスの効果を与える人間へと、生まれ変わらせてくれる人間になれれば、双方にとって「痛み」も価値に変えることができます。ですから、確認をする側もされる側(受けて)も「与贈循環」という思想を理解して「ききあえる関係」を育てていくことが大切です。人の集合を同じ方向に揃えて機能する「場」の形成を、思想は手助けしてくれるのです..。

チェックバックの役割

下記は弊社の仕組みを図解したものです。この仕組みの流れのなかで、チェックバックはTD会議(トップデザイン会議)の前、図の「赤〇」のエリアで仕組化されており、関係各位のTD会議のまえのブラッシュアップ機能として位置付けられています。

僕は、チェックバックをする際「iPad」を活用しています。デザインデータをスクリーンショットでおさえ、デフォルトのメモ機能で指示を記述しています。同時にPCモニターでのスクロール・拡大縮小をして確認もしています。様々なツールがありますが、認識を揃え、間接コストを削減する点において、これが今のところ最善最速だと思っています..。

<実際の指示書|上記の作図作成の場合>

初稿から完成に至るまで、5回ほどのチェックと軽いMTGを重ねています。抽象と具体の往復をしながら、見えていないものが見えてくるような..考えるデザインとは「形の必然」に辿り着く意志そのものです。その痕跡です。

①左上②右上③左下④右下の順でブラッシュアップをしています

03.デザインを目に見えるものにする

制作の流れとしては、①担当ディレクターがWF・案件管理シートを作成②TOPデザイナーがデザイン進行③チェックバック(初稿確認から校了まで)④TD会議⑤お客様へのご提出⑥ご要望をヒアリングして修正..という流れがあり、弊社の仕組みにおいては『③のプロセス』で関わっています。

デザインができるまで、そもそものデザイナーになるプロセスでは「いかにして」という方法論ばかりに焦点が当てられます。前述にあげた「理論」を作り出すことは、社内でのコミュニティを構築することでもあると考えています。日々の実践について疑問を投じ、その問題点を明らかにしあえる組織的なネットワークを構築することで、デザインを目に見えるものにしている感覚です..。弊社では全ディレクター・全デザイナーが参加しているChat【岩松|チェックバック】で全てのやりとりを見える化しています。

※以下は弊社のデザイン制作における流れをまとめた記事です。

 ●エムハンドのデザインができるまで

エムハンドのデザインができるまで

04.チェックバックで意識していること

技術だけではなく「思考」を育むには、自信を持ち、新たな情報を学び、逆境に対処する力をつけることが重要です。ゆえに各自のレベルにあった課題に取り組んでもらい、仕事をうまくこなせるように導き、協力的で好意的な社会のつながりを築いていけるように、手助けをする必要があります。
マインドフルネスとマインドワンダリング、オープンさと繊細さ、孤独と協力、遊びと真剣さ、直観と思慮。こうした一見矛盾する二極性を捉え、デザイナー自身の内的経験と外的経験に意味を見出し、新しい何かをつくる過程で融和させていくことが大切です。

チェックバックを通して、ブラッシュアップされたデザイン案

そのため、僕は下記を意識しています。

  • 判断の基準をもつこと
  • 超客観的に俯瞰視点であること
  • 表面ではなく骨格をみること
  • 認識を点であわせること
  • 選択すること
  • 冷静(褒めない)でいること
  • 自立性を促すこと

<判断の基準をもつこと>

基準を持つとは、これまで経験したものと、初めて経験するものの違いに気づくことでもあります。自分で気づくことは小さなことでもそれは閃きです。日常に感動できること、幸せになれること。人の愛情や親切に気づくことができるということを基本に据える必要があります。抽象的な内容になりますが..デザインに置き換えると、このスタイルは新しい挑戦だね!みたいなことに気づくこと。気づける目をもてているかという話です。

<超客観的に俯瞰視点であること>

超客観的とは「自分」の存在を薄めることです。自分の存在を薄めることでユーザー視点、お客様視点、つくり手視点と複数の視点をもつことを可能にします。超客観的になることで、今に至るデザインの「課題と妙才」を論理的に整理できることに繋がると考えています。この時ポイントになるのが俯瞰高度(視点の高さ)です。①「内側」の視点は体験すること ②「外側」の視点は観客になること ③「上空」の視点は創造することです。 外側の視点で評論するだけになってはいけません。ひとつの解決策に固執するのではなく、複数の選択肢を考慮して発案することが大切です。

<表面ではなく骨格をみること>

曲線を例にすると..曲線は曲線だから美しいのではなくて、内側にその曲線の形を支える「構造」を感じるから美しく感じることができます。自然の原理原則に従い、不自然(線の太さ細さの関係など)をなるべく中和し、内側に血の流れと「骨」の存在を感じさせないと曲線はただの曲線になってしまいます。まずは骨格(課題感)から、年輪のように色とあしらいの質量を纏い、全体を調和させていく..見えないものを見とおす視点が必要です。

<認識を点であわせること>

認識をあわせるということはとても大事で、説明が不足しているとミスが発生したり、やらなくていい仕事を行ってしまいます。「一を聞いて十を知る」という言葉があるように、完璧な理解を受け手に求めてはいけません。お互いが歩み寄らないといけません。僕の場合、指示書に番号を振り、番号の補足を文面にして、認識の乖離を抑える努力をしています。

<選択すること>

選択するということは「すべきでないこと」を排除することです。すべてを効率的にしてしまうと余白にある時間と無駄を抱きしめることができません。何が成功をもたらすかは言いあらわせない。しかし、何が成功を妨げたり、台なしにしたりするかははっきりと言うことができます..。ブラッシュアップで必要なことは「可能性を残していくこと」だと考えています。そうすることで最良だと思える選択肢がうまれます。そこを起点に反復的に改良を加えていくプロセスが大切です。

<冷静(褒めない)でいること>

褒めることは悪いことではありません。実際新しい取り組みがあったときはいいね!なんていいます。ただ褒めすぎてしまうと、そこがゴールになってしまう危険性があります。そのため、常に冷静でいることを心掛けています。日常の関係性を高めるという総合的な質を大事に考えることで、いいアイデアがでる確率の向上や、偶然を取り込む直感力を意識的に磨いていけます。確認する側も責任が伴う以上、一喜一憂することなく常に冷静であることが求められます。ただ、お客様に喜んでいただけたとき、結果がでたときは、もう全力で褒めちぎります。この時大事なのが、次の目標設定の言語化と、今できる最大値を積み重ねていく姿勢を忘れてはいけよ!っと次のアクションに繋げることです。

<自立性を促すこと>

自立性は選択とコントロールです。自分で自分の目標や活動、経験を選ぶことに他なりません。自分がとっている行動が、自分自身であることを裏付けているような感覚を得ることです。誰かに強いられたからではなく、自ら進んで何かをすることで思考は創造的になり、厳しい状況でも踏ん張ることができます。ここは判断任せます!であるとか「~かも」というクッションになるような言葉で「余白」を設けることで、選択するという責任を付与することを大切にしています。

05.大切にしているマインド

弊社では、「共存共栄」を実現するため「YOUR CHALLENGE IS OUR CHALLENGE」を掲げています。自身のために自分の価値を高め、その価値を人のために奉仕し貢献する姿勢です。

相手の考え方や気持ちを受け取る感受性の質が、伝える側の表現力が拡がるスペースを提供します。デザイナーだけでいいものができることはありえません。案件に関わるディレクター、デザインを確認するお客様、関係者との「きき合える関係」がよりよいものになる可能性をひろげてくれるのです。そのために一人ひとりが自らの領域で主体的に動くことが必要です。

CULTURE

ここまでチェックバックする側の視点で語られていますが、受けて側(デザイナー)もブラッシュアップにおいて、必要な姿勢があるとおもっています。以下に、3つポイントを挙げさせていただきます。

①楽な方を選ばない。辛い方を選ぶ

すべて辛い選択をしたほうがいいという意味ではありません。今日の結果を出す必要性と、明日の成功に結びつく能力に投資する必要性とのバランスをとらなければなりません。そうやって、辛い経験は「価値」に変わっていくものなのです。

②完璧主義に陥らない

完璧主義に陥ることなく「次の改善につながる意見」を受け入れていくことは、どんな仕事においても基本です。完璧な仕事をしようとするとスピードが度外視になり費用対効果も落ちることになります。期限を設定しながら、報告はこまめにすることが、双方にとってプラスに働きます。期限の範囲でベースラインを上げるためには「流れを変える」ということも大事です。ソウ・レン・ホウの順番でコミュニケーションをとると良かったりもします。

③できないことを恥ずかしがらない

できないことは素直に認めればいいのです。できないことができるようになることが成長です。人は自らの矛盾を受け入れることで成長するといわれています。自らの多面性を認め、そのまま受け入れる能力こそが、クリエイティブ思考を発揮し、新しい時代を切り開くために欠かせない要素です。

06.おわりに

複雑になる一方の、21世紀の世界の諸問題。生きることに課題があるからこそ、お客様にも、私たち自身にも次の課題が生まれます。前述の「デザインを取り巻く環境」でも述べたように、そもそもの何が問題であるかを見極めるには、独創性、好奇心、リスクを恐れないこと、あいまいなものをそのまま受け入れる度量の大きさといった、クリエイティブな思考が求められています。この思考を成長させるためには、学習能力と記憶力をはじめ、さまざまなスキルをバランスよく磨くこと、そして..知識や従来の考え方から自由になる能力も求められます。

チェックバックを通して、人の仕事がよく見えるようになってきます。つくり手はどんなことを考えたのかその痕跡を追いかけることを可能にします。逆に考えていないことが見えてしまったりもします。

人間の大仕事の一つに世界を感じることがあります。それは、その中で生きている自分に気づくことです。人を感動させる表現のもとをたどれば、それを生み出したつくり手自身の感動、心が動いた瞬間、あたり前だったものがあたり前で済まなくなった瞬間にたどりつきます。そういう瞬間を想い描くことを「入口」にして、粛々と冷静に考え、出来ることを続けることです..。それを支えるのは「一緒にいいものづくりをしよう」という「一緒」という合言葉と「信頼の目安」となる関係です。つくり手の孤独に寄り添い、そっと背中をおしてあげられる..。前提づくりのための思想が、いつかの誰かに巡り、目指す場所(未来)を明確にしてくれるのだとおもいます。

07.本日のチェックバックシリーズ

チェックバックとフィードバックがありますが、僕は意図的に局面で使い分けています。宇宙いったことないので、心の中の話です..。


●チェックバック|宇宙から地球に着陸する感覚..直接的
●フィードバック|宇宙から地球を眺めてる感覚..間接的

おまけ。Twiiterにアップしている「本日のチェックバック」からPick upして、まとめてみました。最後までお読みいただきありがとうございました。

writer

岩松翔太 @IwamatsuShota